
数年前のある早春、友人のタナカカズヒコ氏に釣りに連れて行ってもらった。
そのとき、タナカカズヒコが「海の春ってのは陸上より1ヶ月くらい遅えんだよ」と言ってた。
が、ワタシは「海の春というのは1ヶ月くらい早い」と思っていた。
海辺に10年くらい暮らしていて、2月頃になると海藻が新芽を吹き小魚が潮溜まりに群れるのを見ていたから自信があった。
でもこの日は釣りを教えてくれてるので抗弁は控えた。
タナカカズヒコは剣道家であり、「ごめん、オレ、音楽とか芸術とかまったくわかんねえんだ・・・」と目の前で頭を抱えてみせてくれる率直な人物である。ワタシは、クソ熱い真夏の道場で、めちゃめちゃ臭い防具をかぶってハアハアやってる彼らの行為そのものがまったく理解できない。
彼は呑み屋では美酒家で1合1000円もする地酒を好んで呑む。その知識も豊富だ。ワタシは大吟醸とかでは悪酔いするため、もっぱらハウスポンシュをがぶ飲みする。知識は不要だ。
彼は刺身が好きで自分できれいにサバく腕があり、見事な刺盛を家まで持ってきてくれたことがある。一方、ワタシは魚の血が嫌だからサバきたくないし、そもそも刺身より干物が好きだ。
というわけで一つも趣味が一致しない友人がタナカカズヒコである。
似ているところといえばかなり喧嘩っ早いところだが、なぜかお互いには喧嘩しない。
春の海でそんなことを思いだした。